これは、1989年にエポック社より発売されたEPOCH LCD GAME 超時空大迷路。電子ゲームのブームも去った1990年前後には、液晶を使ったLCDゲームが気軽に遊べる廉価なゲーム機として発売されていた。
このゲームの特徴をひと言でいうなら、PCの性能の向上やロールプレイングゲームのブームによってこの頃に流行っていた3D迷路の探索を液晶ゲームでも再現したもの。バンダイのCUBE ZONEや、Tiger社によるセガのゲームビジョンシリーズガントレット GAUNTLETなど、液晶ゲームでもより複雑なゲーム性を求められるようになったためか、数社から同じような試みがなされていました。1989年というと、NECの手による8ビット機PC-エンジンが87年、16ビットのセガのメガドライブが88年という時期ですから、単純な電子ゲームなど誰にも見向きもされなくなっていた頃だと思います。ゲームの背景は、敵の超時空立体迷路基地内で繰り広げられるスペースコマンド兵士と怪物イドとの壮絶な対決を描いている。箱絵の雰囲気からすると、宇宙の果ての人の気配すらない無人の迷路をさ迷い歩く悪夢といったところでしょう。地図、レーダー、コンパスを頼りに敵基地内を移動して、ライドセーバーを見つけ出し、怪物イドを倒して迷路を脱出する。禁断の惑星とスターウォーズと超時空要塞マクロスを足して水で割ったような設定。
スペースコマンド兵士。1990年代近くのこの時点において、この宇宙服はどうなんでしょうか。ここだけ70年代テイストですが、あくまでも子供向けということでしょうか。ライトセーバーが輝いてなく、棒みたいだし。
なんとなとなく地味なパッケージ裏。1975年に日本で始めてテレビテニスを発売して以来、ずっと日本のテレビゲーム業界を引っ張ってきたテレビゲームの老舗ながら、この時期のエポック社はあまりテレビゲームに力を入れてなかった。後にはファミコンにも参入したけれど、スーパーカセットビジョンでファミコンに挑んで破れてしまったというエポック社の事情も見え隠れします。
こちらは一応、未使用品。このゲーム、電子ゲーム好きな人には見慣れた一品で、オークションでは未使用品がよく出品されています。あまり売れかなかったのでしょうね。
84年発売の原辰徳のダイナミックベースボールとか、あの辺のゲームに似た雰囲気。ボタンの配置まで一緒。83年のファミコン発売以降には、ブームの中心がそちらへ移ってしまい、電子ゲームに新規にお金は掛けられなくなったのでしょう。
怪物イド。ガバリン GOBLIN(HOUSE)とかジャバ・ザ・ハット(Jabba the Hutt)だとか、ゴーストバスターズのスライマー(大食いお化け)だとか、80年代にありがちな雰囲気。イドとは、フロイトの心理学において自我、超自我と並ぶ概念で、快楽原理に基づいて本能のままの欲求を出す精神エネルギーの源泉のこと。イドの怪物とは、映画禁断の惑星から来ていると思いますが、深層心理の迷宮をさ迷い歩くという意味も持たせてあるのかも。
電子ゲームなんだけど、ちゃんと地図が書けるほど本格的。
今でいうと、脱出ゲームみたいなものでしょうか。延々と3D迷路をさ迷い歩くあの感覚を電子ゲームで再現している。
酸素残量という概念もある。アイテムにより酸素を補給しなければならない。また武器を手に入れてパワーアップという、この時期のRPGではお約束も再現。怪物に近づくとアラームで警報がなり、危険を知らせる。そして、ついに怪物イドとの対決。迷路とは別画面で戦闘が繰り広げられる。リザードとかザ・スクリーマーだとか、80年代のPCゲームでは、このように迷路とは別画面でバトルになるものが多かった。
怪物の手が上下しているところに、タイミングを見て飛び込んでアタックするという、モンスターパニック以来のエポック社の伝統(お約束)は守られている。
ウィザードリィの影響からか、この頃は3Dの迷路をさ迷い歩くゲームがおお流行りだった。有名どころでは、入門用の和製ウィズとして出たスクエアのディープダンジョン Deep Dungeon、国産初の本格的RPGザ・ブラックオニキス、リアルタイムのダンジョンを実現したダンジョンマスターなど。この超時空迷路は、雰囲気的には人類の滅亡を目論むロボット「マスター・ザイボッツ」の破壊活動を阻止するために立ち向かうアタリのアーケードゲームXybots(87)によく似た感じがする。また8ビットPCでも3D迷路はおお流行りで、作成するのが意外と簡単だったためか、ベーシックで作られた練習用プログラムやベーマガなどの投稿プログラムにもよく見られた。こちらは初期のPC迷路ゲームの雰囲気をよくかもし出すMSXゲームのイリーガス:エピソード4。
映画でもファンタジーものは大人気で、デビッドボウイ主演で、ラビリンス/魔王の迷宮 Labyrinthという迷路を主題とした作品が作られていた。
フィールドアスレスチックやテーマパークの一種として、巨大迷路みたいなものも流行っていた。こちらは、ソフトバンクのBeep誌で行われた、パックマンやギル、景清のコスプレをして巨大迷路に挑むという企画。
RPGの流行より生まれたゲームブックにも、当然迷路は含まれていた。これらは、北→20、南→112、東→43、西→9みたいな感じで、言葉によって複雑な迷路を再現していた。それだけにとどまらず魔城の迷宮という、ほぼ迷路だけで構成されたえらくマニアックなゲームブックも存在していた。
個人的には、当時はこのゲームの存在自体を知らなかった。中古のファミコンショップが乱立していた頃だったので、電子ゲームには目が行かなかった。この頃までには、まだ残っていた個人の玩具店でショーケース内に売れ残ったオイルギャングとかを見つけて、おお懐かしいとすでに電子ゲームは懐古の対象だった。
ということで、宇宙の果ての超時空の迷路をさ迷い歩く孤独な悪夢を描きつつ、どこか懐かしい感じのEPOCH LCD GAME 超時空大迷路でした。
参考:帰ってきた電子ゲーム、GAME&WATCH ゲームウォッチ カンストへの道、レトロコンピュータピープル 〔別館〕、Beep復刻版/ソフトバンク