バタアシ金魚は、80年代後半にヤングマガジン誌に連載されていた望月峯太郎原作の同名の漫画を原作とする、1990年に公開された青春映画。監督は、トイレの花子さん、東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜、深夜食堂などの松岡錠司監督。
2001年にウォーターボーイズが登場するまでは、プールや水泳部を主題とした夏を題材とする青春映画の筆頭だったといってよい一本。以前一度紹介していますが、DVD版を入手したので、夏に見たいお約束映画として再度紹介。物語は、高校の水泳部が舞台。主人公カオル(筒井道隆)は水泳部のソノコ(高岡早紀)に一目ぼれをする。そこで彼女の気を惹くために水泳部に入部する。思い込みの激しいカオルは、断られてもめげず、ソノコを追いかけていくが…。
70年代には、巨人の星やあしたのジョー、エースをねらえ、ドカベンなどスポーツ根性漫画がブームとなりましたが、80年代に入ると時代の変化とともにうる星やつら、タッチなどのラブコメ全盛期になります。スポーツ漫画も、根性で勝つことを目的としたものから、タッチ、ラフ、キャプテン翼、スラムダンクなどのように、恋愛、友情まで含めて学園生活の全般を描くスマートなものになっていきます。ブームとなったタッチの終了と前後して、85年に連載を開始したバタアシ金魚の時代ともなると、もう一ひねりあってラブコメといっても単純な恋愛ものではないし、スポーツを題材にしているといっても単純に勝利を目的としたものでもないといった具合に変化していきます。
原作の方は、ほとんど忘れているのため、どれくらい原作のエピソードが再現されているかわかりませんが、映画のほうも原作を反映してか、水泳競技の場面は出てくるのだけれども、特にそれに執着するわけではなく、恋愛ものといっても(今だったらストーカー扱いされそうな)カオルがソノコに一方的に付きまとう展開になっており、しかも情熱的にソノコを追いかけつつも、カオルにはプーという彼女がいたりするなど、この時代らしくちょっとひねった物語になっている。対するソノコの側も嫌がりつつもライバルの永井(東幹久)を当て馬にしたり、過食症のようにドカ食いをしてストレス激太りをしたりと、単なるアイドル映画としては片付けられない、ある種のリアルさを持っています。このような流れの中で、カメラはこの年代特有の微妙な心の動きと駆け引きを丹念になぞっていきます。
当時の書籍の映画評に青の映画という評価がありましたが、とにかく空の青、水の青、プールの青と、青が作品世界を表現するキーワードになっているかのよう。ちょっとシュールなくらいに、常に自信満々で自意識過剰なくせに口ばかりの主人公を描いており、誰しも経験のある思い通りにはならない青春の不条理を描いた作品でもあるのですが、この不条理で不合理なストーリ展開がラスト前のプール内での格闘シーンへと繋がり、それぞれの想いは吐き出され表現されて、そこにラストシーンのカタルシスが生まれている。
今では中堅俳優となった筒井道隆さんのデビュー作。この後、あすなろ白書などトレンディ俳優として人気を博した。他にも浅野忠信さんのデビュー作でもあり、若き日のかわいらしい浅野氏の姿が見れる。また、売れる前の若き日の東幹久さんも出演している。
原作のソノコは、スリムに描かれているためイメージとしては少し異なる高岡早紀さん。ミスマガジンということで、ヤングマガジン繋がりで選ばれたよう。ビクターJVCのCMなどにも登場していた。とはいっても、この映画の魅力は8割方この人にあると言ってよい。
こちらは、当時もののVHS版。だいたい同年代で、当時リアルタイムにこの作品を見たけれど、その時には随分と共感できた。さすがに、今となっては共感しづらいわからない部分も増えたのだが、今回再視聴して感じたのは、バイクで疾走するシーンなど時代の空気感がよく出ているということ。この頃はバイクブームだったので、原作にもバイクは登場しており、高校生などがバイクに憧れたり、バイクの話題で盛り上がることも普通だった。また、(カオルや永井など主人公周辺は異なるが)学生服などのシルエットもこの時代らしく、ちょっと太めのものが見られる。それから、空や夏の雲、プールの水面、虹、新興住宅地の風景、都市モノレールなど、印象的な映像が多い。松岡監督のインタビューを読んでいたら、これはハッとした瞬間を見つけたら、その場ですぐに撮影をするという手法によって撮られており、監督が来る前にカメラマンが勝手に風景を撮っていたものもあるのだとか。そのようにして、時代の空気(瞬間)を切り取ったものが収められ、封じ込められている。
アマゾンや映画サイトでの評価は、星★★★★くらい。日本アカデミー賞、ブルーリボン賞、報知映画賞を受賞しており、邦画の青春映画としては、単純にアイドル映画として以上の評価がなされている作品だと思います。ウォーターボーイズは未視聴のためわかりませんが、個人的には、未だに夏の映画のベスト。80年代には、角川映画全盛期ということもあって翔んだカップル、セーラー服と機関銃、時をかける少女、転校生、さびしんぼう、アイコ十六歳、台風クラブ、家族ゲーム、パンツの穴など、名作といわれる青春映画がたくさん作られましたが、個人的にはこれが一番の夏の映画だと思います。
ということで、夏の一瞬を切り取って封じ込めたような作品、バタアシ金魚でした。
参考:Wiki バタアシ金魚、松岡錠司さん、筒井道隆さん、浅野忠信さんの項、シネマジャーナル 松岡監督監督インタビュー