ガチ☆ボーイは、2008年に公開された日本の青春映画。監督は、タイヨウのうたの小泉徳宏監督。
舞台は、北海道にある大学のプロレス研究会。いまいち盛り上がっていないプロレス研究会にある日、入部希望者がやってくる。名前は、五十嵐。学際で行われた、プロレス研究会の試合を観戦していて感激し、自分も学生プロレスをやってみたいと思ったらしい。入部希望者は、五十嵐一人だったため、弱小プロレス研究会としては暖かく迎え入れてくれる。しかし、彼は活動風景をいちいち写真に収め、何かやるたびひとつひとつメモを取るという変わった行動を見せる。どこか違和感を感じる部員たちであったが、そこには彼のある特殊な事情が関わっていた…。
フジテレビが製作したということもあってか、出演者がこの時期の旬の人を集めていてえらく豪華。主演は、海猿やROOKIESで人気者となった佐藤隆太さん。弱小プロレス研究会を率いる正義感の強いリーダー役に向井理さん、主人公を理解してくれるヒロイン役にダルビッシュの元奥さんであるサエコさん、五十嵐の妹役に仲里依紗さん、父親役に泉谷しげるさん、部OBでバーを経営しておりリングアナを兼ねる先輩役に宮川大輔さん、みちのくプロレスが監修やレスリング指導をしており、現役のレスラーたちも出演しています。元々は、話題となった舞台が原作のよう。
プロレスという男臭い題材を扱っていながらも、ちょっとポップな感じ。
この映画の鍵となるのは、主人公の五十嵐が司法試験の一次試験に通るほどの秀才でありながら、事故による高次脳機能障害で新しいことが覚えられなくなっているということ。彼は、一晩寝ると一日あったことを全て忘れてしまうため、写真を撮り、メモに取り、朝起きると同時にそれらのメモを全て読み返して、昨日と同じ生活を継続している。そのため、プロレスの段取りがなかなか覚えられずに常にガチで挑んでしまうことから、ガチボーイということになる。彼を理解してくれるヒロインも、彼女としてではなく告白して振られたことを忘れて何度でも告白してしまうという、この設定をより際立たせるための位置付けとなっている。
彼は、失敗を繰り返しながらもまりりん仮面というリングネームで人気者となる。これを利用しようとする、北海道学生プロレス連合のライバル役シーラカンズとのガチンコ勝負が物語のクライマックスとなる。これは、本職のプロレスラーの指導を受けながら、役者さんたちが実際に体を張ってプロレスの試合を演じており、それがプロレスの持つ楽しさを伝えてくれるものとなっている。また、リーダー役の向井理さんをはじめとして、出てくる人々がみんな良い人ばかりなので、学生サークルの独特のぬるいほんわかとした関係性が伝わってきて、プロレスという暑苦しい題材を取りながらも、とても爽やかな青春映画となっている。
80年代から90年代に掛けては、プロレスはテレビのゴールデンの時間帯で放送されていました。アントニオ猪木やジャイアント馬場、タイガーマスクや長州力、スタンハンセン、ブルーザーブロディ、ハルクホーガンといった綺羅星のようなスター選手が登場して盛り上がりを見せた。80年代の終わりから90年代にかけては、前田日明、藤原喜明、高田延彦などの格闘技色の強いUWFという団体も生まれ、新しいプロレスの流れも生まれた。その後、趣味の多様化やミスター高橋、高田延彦のプロレスの内情を書いた本の影響などもあって、プロレス人気もしだいに低下していったが、このガチ☆ボーイが公開された時期というのは、総合格闘技のK1やPRIDE、エンターティメント色の強いハッスルなどがブームの頃で、再びプロレス人気が盛り上がっていた。大晦日に紅白の裏番組で格闘技の試合が放映されるなど、ある意味80年代頃の黄金期に近い輝きをプロレスが見せていた時期だったのかも知れません。
個人的には、泉谷しげるさんの演じた親父さんが良かった。昨年、遠方に出かけた際に友人の親戚宅に留めてもらう機会があったのだが、そこの親父さんが俳優の卵である息子の活躍をiPadで、繰り返し繰り返し眺めていた。その息子さんはすでに30を超えており、しかも地方都市なので俳優で身を立てていくことは困難だと思われたが、子を思う親の気持ちがとてもよく伝わってきた。この親父さんは自営業だったので、いざとなったら継がせればよいという気持ちもあるだろうが、もうからないのであまり積極的には考えてなかった。五十嵐の実家も寂れた銭湯で、客は入らないが彼が食っていくために継がせようとしている。司法試験に通った五十嵐は期待の息子だったわけで、事故でそれらは失われてしまった。失望しつつも、プロレスをしている息子を静かに見守っている泉谷氏の演ずる寡黙な親父さんを見て、そんなことを思い出していた。
学生プロレスという、一見男臭くて暑苦しそうなテーマを扱いつつ、実は見終わった後に爽やかな余韻を残す夏の青春映画です。ということで、個人的な評価は星★★★☆(70点)。良い意味で期待を裏切ってくれた、暑い夏に見たい映画ガチ☆ボーイでした。お勧め。
参考:Wiki ガチ☆ボーイ、小泉徳宏監督、佐藤隆太さん、サエコさん、向井理さんの項