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冬物語/原秀則・小学館

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 冬物語は、1987年から1990年まで少年ビッグコミック、ヤングサンデー誌にて連載された原秀則さん原作の漫画。


 それまで青春漫画の舞台というと、その読者層を反映してか高校が圧倒的に多かったのですが、この作品ではこの時期としても珍しかった予備校での生活を描いている。時代背景としては、そろそろ世代数の多い団塊ジュニア世代の受験期にかかってきており、受験生の数が多くなり予備校で浪人するということが珍しくなくなってきていたということがあります。4年制の大学数も、少子化といわれている現在では約800校近くあるものが、1990年頃だと約500校と少なかったこともあって、偏差値や競争率が急激に上昇した時期でした。この漫画の連載時期にあたる1987~90年頃はバブル期にあたっており、社会に余裕ができたこともあってか予備校生のイメージも、それまではキテレツ大百科の勉三さんみたいなものから少しずつ変わってきていたのだと思います。


 そのような時代背景もあってか冬物語はスマッシュヒットを飛ばし、全7巻が刊行されて第33回小学館漫画賞を受賞している。


 物語は、主人公の森川光は偏差値が最低レベルといわれる大学まで全て不合格となり、専修大学に合格した彼女とも別れて浪人生になる。予備校の受付で出会った雨宮しおりに一目惚れをし、彼女と同じコースを選択することを決める。だがそこは、東大専科コースだった…。出だしこそ漫画的ですが2巻からは私立文系コースに進路を変更し、もう一人のヒロイン倉橋奈緒子が登場してきます。勉強そっちのけで女の子の顔色を伺う優柔不断な生活がたたってか、第一志望だった日東駒専レベルの大学はすべて落ちてしまい、現役のときに落ちた偏差値が最低レベルといわれる八千代商科大になんとか合格する。それでもあきらめきれない光は、大学を休学し仮面浪人を決断するが…。


 バブル期ということもあってか、予備校での勉強シーンが多いのは2巻ぐらいまでで、喫茶店でしゃべったり、飲みに行ったり、旅行に行くなど遊んでいるシーンが多くなってくる。服装もそれまでの浪人生というイメージからは遠く、かなりファッショナブルな格好をしている。人気が出たためか大学に入った後も物語は続き、必ずしも浪人生の物語ではなくなったという事情もあるでしょうが、意外に今でいうリア充な話になっています。また主人公は、ひたすら偏差値や知名度で大学を決めており、何学部かだとか、何を学びに行くのかといったことは、すっぽりと抜け落ちている。ただ、これはこの時期の文系の学生としてはそれほどおかしなことでもなく、わりとそんなものでした。


 個人的には、浪人していた時期に読んでいて、あの頃の予備校独特の空気感とかが上手く表現されている2巻ぐらいまでしか読んでいなかった。


 奈緒子という可愛い子に熱心にかまってもらい、いくらおしゃれなお店や飲み屋に立ち寄る生活であっても、予備校という場所、身分は一時的なものであり、常にリミットは迫って来る。また大学生のようにバイトできるわけでもないし、金もなく自由な生活でもない。そのような限られた時間の刹那が物語の主題だったのかなという気もします。


 1989年に東宝で映画化され公開された。当時上映は、同じ小学館のビックコミックスピリッツで連載されていて浅香唯さんの主演で映画化されたYAWARA!。残念ながら、どちらもDVD化されてない。


 監督は、佐賀のがばいばあちゃんの倉内均さん、主演はパンツの穴の山本陽一さん、水野真紀さん、ビーバップで人気の出た宮崎萬純さん。公開当時、映画館に見に行ってYAWARA!を途中まで見たところで寝てしまった。唯一記憶に残っているのは、YAWARA!に仲本工事さんが出演していたことで、全員集合が終わってからも活躍されているのを見て良かったと思ったこと。


 どのような内容だったのかはまったく覚えていませんが、原作のイメージや雰囲気は良く出ていると思います。


 個人的な思い出としては、予備校の寮に入って浪人生活をしていた頃にこの漫画を読んでいた。門限が20時で消灯が0時など、入ったばかりの頃にはカレンダーに丸をつけてこの生活が早く終わればいいのにと考える日々だった。ただ少しずつ予備校での生活にも慣れていき、同じ高校の同級生も何人かいたことから、夜中に誰かの部屋に集まって遅くまでしゃべったり、門限後も塀を越えて寮を抜け出しラーメンを食べに行ったり、オールナイトの映画を見に行ったりするようになった。予備校は高校とは異なり、大教室で選択した講義を受けるという形式なので、朝入り口で出席のタイムカードを読み込ませれば後は出席は取らず、自習室に行こうがさぼって街に行こうが自由になる部分もあった。慣れてくるにつれて開店前のパチンコ屋に並んでおっさんと席取をしてみたり、代ゼミに行った友達とボーリング場で待ち合わせをしてゲームをしてみたりと、予備校生なりに楽しい生活となった。ただ基本的に金はないし、田舎者ということもあって、この頃流行っていたディスコなどに行ったことはなかった。街中をあちこちウインドウショッピングして大型の書店で立ち読みをし、お気に入りの漫画を買い帰って寮で読むというだけで満足していた。


 もちろんそんな自由な生活も大学生ではないため、長く続くものではなく、あくまでも一時の場でしかなかった。夏期講習が終わり模試の結果なども出てくるとあせりも見え始め、受験が近づくにつれてからは、寮の部屋にこもって朝から夜中まで勉強をするという生活に切り替えた。1月の終わり頃には予備校での講義もなくなり、寮を出なければならない時期も近くなって、まだその時点では合格発表も出ていないため、どこにも行くところがなかったらどうしようという現実を見つめる羽目になった。同時に、この楽しかった時間もいつかは終わってしまう、ずっと過ごせるわけではないのだと、感傷的な気持ちになった。その予備校は、今はもう取り壊されてありません。少子化や大学全入時代を迎えて、代ゼミが全国27校を7校に縮小するという、この頃が嘘みたいな時代になっています。大学も社会人や留学生に門戸を開くなど生き残りに懸命で、もうこのような予備校にスポットがあたる時代はないのでしょう。


 この作品は、そんなバブル期特有のふわふわとした空気感、若さゆえどこで何をしても新鮮で楽しいという期待感、まぶしさ、高校生でもなく大学生でもないという予備校生特有の焦燥感、所在感のなさなど、いろいろなものが混ざり合っている作品だと思います。あの頃に受験生だった人、予備校での生活を経験した人には、今読んでもなかなか楽しめる作品になっているよう思います。



参考:冬物語/原秀則・小学館、Wiki 冬物語(漫画)、原秀則、倉内均の項、各種偏差値データ、DVDで見れない傑作映画、幻の黄金時代 昭和50年代 80年代、バブルの時代 バブル経済

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