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横道世之介(よこみちよのすけ)・ショウゲート/アミューズソフト

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 横道世之介(よこみちよのすけ)は、2013年に公開された日本映画。


 昨年公開された映画ですが、事前情報はなく、たまたま用事があって乗っていた高速バスの車内で流れていました。最初は、流れる音楽やファッション等の風俗がどうも古いし、古い作品のリバイバルかと思っていたのですが、場面が切り替わってネットや携帯などの用語が突然挿入されて、新しい映画だと気付いた。80年代という時代を扱っていることは理解できたが、いろんな登場人物やエピソードが現れては消えてゆく展開で、一体何が言いたい映画なのかさっぱりわからない。2時間40分という長い作品なのですが、大きなドラマも起こらない。高速バスの車内のため、途中で寝てしまったり、サービスエリアでトイレに行ったりと、終盤では現代と過去がめまぐるしく交錯して終わってしまった…。初見では、そんな印象でした。


 原作は、2008年に毎日新聞に連載された芥川賞作家の吉田修一氏の小説。2010年度の柴田錬三郎賞を受賞している。2013年に沖田修一監督、高良健吾さん、吉高由里子さんの主演で映画化された。1987年に法政大学に入学するために長崎から上京してきた、主人公の横道世之介の一年間を描いた作品である。原作の小説は、2008年4月1日から毎日新聞紙上で連載が開始され、物語の進行に合わせてちょうど一年後の2009年3月31日に終了した。映画のほうは、第56回のブルーリボン賞作品賞を受賞しており、アマゾンや映画サイトの評価も星★★★★+☆程度と、あちらこちらで絶賛されている。


 物語は、主人公の世之介が大学生活の一年間で知り合った人々の交流と、そこから16年後の2003年の彼らの回想を描く。1987年という時代の時間軸の中に、シームレスで予告もなく2003年の現在の時間がつなぎ合わされ、1987年の話と2003年の現在が混在しながら物語は進んでいく。現在の時間軸に世之介は登場せず、人々の回想の中に浮かび上がった世之介を描くことで、誰しも経験のある輝かしい時間の中で出会った、懐かしい人を思い出させてくれるという仕掛けになっている。


 ちなみに1987年というのは、原作者の吉田修一氏が大学に入った年で、主人公の大学が法政大学の経営学部という点や、長崎から上京したというシチュエーションも同じらしい。ただ、必ずしも自叙伝というわけでもないようで、かなり入念に意図的に構築された物語という感想を抱く。1987年というのはバブル景気に突入した頃で、日本という国にとっても(ナイーブで)輝いた時間であったと言えるだろうし、19~20歳くらいという誰にとっても輝かしい時間に、ああ、こんなやついたなあと、誰しもが懐かしく思い出す、それぞれの“あの人”の物語ということになる。


 駅前に斉藤由貴のAXIA(1985年発売)の看板が掲げてあったり、新製品としてキスミントが配布されていたり、レベッカが流れたり、石井明美のCHA CHA CHA(1986年のヒット)が流れていたり。どこかダサいファッションや、髪型など、時代の空気感を感じさせる仕掛けはしっかりとなされています。世之介の住むアパートの部屋も、フローリングとかでなく、いかにもあの当時一般的だった1DKといった感じで、リアルな生活感が漂っている。最初、九州から上京してきた世之介は、九州弁丸出しでしゃべるのですが(世之介役の高良健吾さんは熊本の出身)、後半ではすっかり標準語になっていたり、ファッションも洗練されているなど、かなり細かなところまで気を配って製作されていることがわかります。


 近年で似たような設定の映画としては、2006年に公開された虹の女神。映像制作会社で働く主人公が、ある時に大学時代の友人の訃報を知る。そこから、記憶は2人が出合った青葉学院大学映画研究部の頃へと戻ってゆく・・・。岩井俊二氏の手による脚本で、これもアマゾンや映画評では評価の高い作品。


 こちらは、ビックコミック誌に連載されていた、あの時代の大学生の学生生活を描いた細野不二彦氏のあどりぶシネ倶楽部&うにばーしてぃBOYS。バブル期の映研とサボテン部(?)の活動を描いています。作品としては佳作ですが、そこに流れるけだるいような、明るすぎるような空気感が秀逸。


 こちらは、同じく小学館のヤングサンデー誌に連載されていた原秀則氏の冬物語。大学生ではなく予備校生ですが、この時代は若者が多かったので、予備校生活ですらまぶしい時間の舞台となった。映画化されて、主演はパンツの穴で人気が出た山本陽一さん。最近、あの人は今みたいな番組に出演されていました。少子化で大学全入時代となり、代ゼミが事業を縮小したというニュースを聞くと、嘘のような時代の話。


 こちらは、同じく小学館のビックコミックスピリッツ誌に連載されていた、ツルモク独身寮。主人公が、高校を卒業して上京し入社した家具などの製作所の独身寮が舞台。80年代の終わりから90年代の初頭辺りの物語。
 

 こちらは、かなり珍しい80年代~90年代の大学生活を体験できるというシミュレーションゲーム、リフレインラブ。ヒロインや女性キャラばかりか、男性キャラにも好感度のパラメーターが設定されており、男女入り乱れての、この当時流行った男女7人夏物語やセント・エルモス・ファイアー、愛という名のもとに、あすなろ白書のような世界を疑似体験できる。


 主演の高良健吾さんは、映画ノルウェイの森で“僕”の友人のキズキを演じていた。このノルウェイの森も、原作は1987年に発表され、37歳になった現在の“僕”が、1968年の学生時代のことを思い出すというよく似た構造を持つ物語であった。ノルウェイの森は、最後にこの世のどこでもない場所からガールフレンドの緑に電話をかけるというシーンで終わるが、この横道世之介でもラストシーン近くで、公衆電話から電話をかけるシーンがある。それは、実家に向けてたわいもない話をしようと、ジャラジャラと10円玉を投入してかけたはいいが、家事が忙しいからとそっけなく親から切られてしまうという展開で終わる。シリアスな60年代と能天気な80年代の時代背景の違いが、そこには対比されているような気がする。


 ということで、個人的評価は星★★★★+☆、見る時の気分によっては星★★★★★でも良いかも。ここを見て懐かしいと感じる方にもお勧めの一本。ということで、近年の作品としてはかなり珍しい青春映画だと言える横道世之介(よこみちよのすけ)でした。



参考:Wiki 横道世之介(ヨコミチヨノスケ)の項、映画 横道世之介公式サイト

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